
彼とは大学の同級生で同じ研究室に所属していた。
遊び惚けている私とは違って、真面目で研究熱心で、それでいて人懐こい奴だった。
卒業後数年修行をして、私は静岡、彼は大阪で動物病院を開業した。
私はご覧の通りの小さな町医者だけど、彼は獣医師を数人抱える大病院の院長になった
卒業以来殆ど音信不通だったが、数年前にひょんなことから連絡を取り合うようになった。
その時の話で、彼がトライアスロンをやっていると知った。
「へー、すごいね」
すると彼はサラッと言った。
「一応ランキングにも載ってるよ」
トライアスロンを完走するだけでもすごいのにランキングに載るとは。
どれどれ。何十位くらいなんだ?
インターネットで調べたら、なんと!年代別(当時50~54歳)でNo.1だった。
学生時代はとりわけスポーツに打ち込んでいた訳でもなく、走力だったら私の方が全然上。
一体何が彼をそうさせたのか?
「40過ぎて太っちゃってさ、痩せるためにトレーニングしてたら嵌っちゃって」
才能が開花した。
SNSで彼の活躍の報告を見るたびに心躍らせていた。
「バテバテだったけど、なんとか1位獲れたわ」
「今年もハワイ・コナの大会に行ってきます」
そういう話は私のトレーニングのモチベーションアップにも繋がった。
彼は私のヒーローだった。
先日空木岳登山の時、タイムオーバーして
「もう年かな・・」
と弱音を吐いたら
「まだまだ年じゃないよ」
と励ましてくれた。
それが最後のやり取りになってしまった。
日課となっているバイクトレーニング中にトラックにはねられたらしい。
報道もされない、よくある交通事故。
でも、私には天地がひっくり返るほどの大事件。
私のヒーローが死んだ。
「いつか一緒に山に行こうな」
約束は果たすことが出来なくなった。
なぜ?
どうして彼が?
心が乱れる。
身体から力が抜けていく。
辛い。
悲しい。
誰か嘘だと言ってくれ。。。

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